YouTubeのCCRIセミナー「気管切開患者の痰詰まり!どうしたらいい?#2」をご覧いただいた方から、コメントでご相談をいただきました。長文になりますので、当ブログで回答させていただきます。看護師ではないいうことで、少し平易な言葉にしています。
酸素の有無
YouTubeのCCRIセミナー「気管切開患者の痰詰まり!どうしたらいい?#2」では、痰詰まり改善策三選として、以下の3つを紹介しました。
- 気管切開チューブの内筒交換
- HFNC(ハイフローネーザルカニューラ)で加温加湿
- 高流量酸素療法でヒーターを使用し、蛇腹を室温で冷却されないようにする
お父様は酸素療法が必要な状態でしょうか。
酸素をしていないとなると、ここで提案している「HFNC」と「高流量システム」で蛇腹を冷やさないという方法は使えません。
室温の加湿
お父様は、おそらく人工鼻というフィルターを気管切開部に装着していると思いますが、人工鼻の目的は「異物の混入予防」と「加温加湿」です。私達の上気道は「線毛」といって、鼻毛をもっと細かくしたような毛が生えていて、細菌などの異物を気管に運ばれないようにしています。また、上気道は吸った空気を体温で温め、加温加湿する効果もあります。
ところが、気管切開をすると吸った空気がここを通らなくなるため、加温加湿が必要になるのです。人工鼻は上気道の代わりをするものですが、残念ながら通常の成人の換気量に対して容量が少なく、加温加湿効果が少ないのが欠点です。なので人工鼻以外の加温加湿を考えないと、懸念されている痰詰まりはまた起こると思います。
ネブライザーは動画の中でもお話しましたが、痰が固くなってしまったら溶かすことはできません。それよりも、在宅であれば室内を加湿するほうが効果的です。室温が低いとそこに含まれる水蒸気量は少ないので(Part 1参照)、室温も高めにして加湿器で加湿してください。温かい蒸気が発生するものが良いと思います。
ウイルスは乾燥すると活性化するため、私の友人は高性能加湿器を購入し、部屋を熱帯雨林のようにしています。健常人でも湿度を高めにしておくと、ウイルス感染しにくいです。具体的には、冬は18~22℃で湿度55~60%くらいを目標にすると良いです。
ただ、加湿器を置く位置は人工鼻の近くにしすぎないことです。蒸気で人工鼻が目詰まりをすると、息苦しくなります(カフ付でなければ窒息することはありませんが、カフ付だと窒息の危険があります)。
加温加湿が十分されていれば、痰が柔らかいため在宅での気管吸引も容易にできると思います。困難なのは、固まってしまって吸引チューブでは吸いきれない時です。
気管切開チューブは、複管タイプか
気管切開チューブには、二重構造になっているものがあります。内筒と言われる管が入っており、痰詰まりしたときにその管だけ交換すれば済みます。これがYouTubeで挙げた「気管切開チューブの内筒交換」という方法です。加温加湿を頑張っていても固まるときはあるので、その時は内筒交換が一番です。
動画の中で紹介している製品「インナーカニューラ」は、ディスポーザブルなので、外して新しいものに交換するだけでとても簡単で清潔です。ただ、気管切開チューブも専用のものを使う必要があります。アスパーエース(コヴィディエンジャパン株式会社)は、同じメーカーなので可能です。
他にも、コーケンというメーカーにも複管タイプがあり、比較的導入している病院が多いと思います。ただ、内筒はディスポーザブルではないので、外して洗って再装着する必要があります。
気管切開チューブは、カフ付か
お父様の状況を推察すると、肺活量や咳嗽力(咳をする力)は落ちていると思われます。
その際は、唾液などの口の分泌物を気管に垂れ込ませないことが必要になります。舌切除されているということで、嚥下機能(飲み込む力)も落ちていると思いますので、唾液などが気管に垂れ込んで、それを咳で喀出(口からぺっと出すこと)できず痰が増え、乾燥して固まってしまうのだと思います。高齢に伴い唾液の分泌量は減りますが、それでも1日に1L程度は出ます。
この垂れ込みを予防するのに、気管切開チューブに付いている「カフ」という風船が有効です。垂れ込んだ唾液を下気道(肺へ続く気管)へ流れ込まないようにするものです(垂れ込みは防ぐことはできないので、減らすことができるというほうが正しい表現ですかね)。
カフの上には、カフ上部吸引というものが付いているものがあり、吸引器を購入されたとのことですので、カフ上部を時々(もしくは、低圧で持続的に)吸引することで、カフ上部に溜まった唾液を回収でき、垂れ込みを予防できます。ただ、気管切開チューブには、カフが付いているものと付いていないものがあり、在宅ですと付いていないものが多いのではと思います。
その際は、口腔の分泌物を減らすことが必要ですので、適宜、口腔を吸引すると良いです。口腔吸引を持続的にできる、メラ唾液持続吸引チューブなども販売されており、飴をしゃぶるように口に常時入れておいて、吸引することもありますが、意識がきちんとしている方は、すぐに出してしまうと思うので、時々口を吸引してあげるといいです。
口腔の乾燥
舌切除ということで、もし常に口を開けている状態だとすると、口が乾燥している可能性もあります。不感蒸泄(口の粘膜から水分が蒸発してしまうこと)が増えることで、口腔から気管の乾燥も助長されます。その際は、口腔を湿潤させる必要があります。
スポンジブラシなどで口を湿らせるケアは多くても3回/1日が限度だと思いますので、保湿スプレーがおすすめです。口腔ケアしたあとにスプレーすると数時間は保湿されます。それ以外にも気づいたときに適宜シュッとするだけでも違います。
製品としては、ペプチサル ジェントル マウスウォッシュ(ティーアンドケー株式会社)などがおすすめですが、市販の手に入りやすいもので結構です。また、ペーストやジェルなど形状は色々あります。製品によって保湿効果は高いけどネバつきがあり塊になりやすいものなど特徴がありますので、お父様の口腔の環境を説明して、薬剤師等の方とどんな製品がいいか相談するといいと思います。
首の位置
首の位置は顎が上がった状態になっていないでしょうか。顎が上がった状態だと、余計に唾液が気管に垂れ込みやすくなります。意識して顎を引くようにするといいですが、常時は難しいと思います。横になっていることが多いと思いますので、枕の位置を高めにすると自然と顎が引かれます。
また、首や肩、背中も凝って固くなっていると、顎が上がりやすくなります。ストレッチやマッサージをすることも良いと思います。
吸引器について
在宅用の吸引器は、一般的に吸引圧は低めですが、気管吸引するときに高い吸引圧をかけると、粘膜を傷つけてしまったり、吸引で無気肺を形成してしまったりとても危険です。したがって、優先させるべきことは痰を固くさせない工夫です。
まとめ
いろいろ書いてきましたが、まとめると以下のようになります。
- 部屋を加温加湿する(不快にならない程度で良いと思います)
- 気管切開チューブを複管タイプにしてもらい、痰が固まったときは内筒を交換する
- カフ上部または口腔吸引をして垂れ込みを減らす
- 保湿スプレーなどで口腔を保湿する
- 顎があがったままにならないようにストレッチやマッサージをする
以上、参考になれば幸いです。
YouTubeをご覧いただきありがとうございました!
看護師だけでなく、一般の方にもご覧いただけてとても嬉しいです。
多くの方が同じような悩みを抱えていると思いますので、このように共有させていただき、一緒に考えさせていただきたいと思います。