食事中にSpO2が低下する事例への対応

NT

今回、CCRIのホームページ内のお問合せからご相談をいただきました。
臨床でよく遭遇する内容であり、悩んでいる方も多いと思いますので、相談者(看護師)の同意を得て、ご紹介させていただきます。

酸素療法中の患者が、食事時に酸素デバイスを変更するとSpO2が低下するため、どうしたらいいのか。

以下に順を追って回答させていただきます。

患者紹介

肺炎で入院中の患者。オープンフェースマスク(アトムメディカル株式会社)で酸素投与中。

通常の酸素マスクだと患者自身で酸素マスクを外してしまうが、マスクの横に大きな穴が開いているタイプのオープンフェースマスクであれば、外さずに装着している。オープンフェースマスク5L/分でSpO2は91~94%の維持が可能。食事の際は経鼻カニューラに変更している。医師の指示は「SpO2は90%を維持する」となっている。

写真提供:アトムメディカル株式会社

相談場面

相談者は、患者が食事の際、経鼻カニューラ6L/分で投与したところ、SpO2は90%で推移した。ところが、他の同僚看護師から「経鼻カニューラは3L/分までとなっている。それ以上の流量は鼻腔粘膜の刺激となるから、流量を上げるべきではない。」とクレームがきた。

相談者は、「医師の指示はSpO2は90%を維持する」であり、食事中も安静時と同じSpO2を維持できるように酸素流量(吸入気酸素濃度)をあげるべきと考えているが、「経鼻カニューラは3L/分までしか使ってはいけない」、「SpO2が88~89%だって短時間ならいいじゃない」、「SpO2が90%未満になってアラームが鳴っても少しの間だから」と酸素デバイスの流量を優先する看護師と解釈が異なり、こういうことで人間関係もギクシャクする。

こういう時、何を優先すべきか、どう解釈して、どう管理したらいいのか。酸素療法デバイスは様々な場面で変更する必要があるため、教えてほしい。また、オープンフェースマスクという新しいデバイスも教えてほしい。

NT

このように双方正しい主張をしている場面では、とかく衝突しがちだと思います。それでは「食事中にSpO2が低下する事例への対応」ということで、この問題を解決するための知識を含めて整理してみます。

回答

SpO2が90%を下回るということ

食事という行動は、安静時よりも酸素消費量が高まります。その上で、酸素マスクから経鼻カニューラへデバイスを変更すれば、当然SpO2は低下します。

酸素解離曲線はご存じでしょうか。SaO2とPaO2の関係性を示したものですが、SaO2が90%を下回ると、1%低下するごとに、PaO2の低下は大きくなります。つまり、SaO2が90%を下回ったら、「1~2%程度の低下は変わりない」ではありません。

また、SaO2が90%のとき、PaO2は60torr程度となります。呼吸不全の定義は「PaO2≦60torr」ですから、医師の指示も「SpO2>90%維持」という指示なのだと思います。

患者への影響

食事中の低酸素状態は、頻呼吸を招き、頻呼吸は誤嚥につながります。さらに、低酸素状態は、疲労感を助長させ、食事に対して嫌悪感を抱いたり、摂取そのものを拒否したりしかねません。当然、肺炎の回復の妨げになります。このようなリスクを回避するためにも、患者を低酸素状態にしないことが重要です。

問題の整理
  1. 食事中、酸素カニューラ3L/分では、SpO2>90%を維持「できない」。
  2. 酸素カニューラデバイスの正しい使い方では、3L/分までしか投与できない(相談者の施設の基準、一般的には5L/分を上限としているところが多いと思います)。
  3. 酸素カニューラ6L/分だと、SpO2>90%維持「できる」が、これでは、酸素デバイスの正しい使い方から反する。
  4. 主治医は、患者が食事中、酸素カニューラ3L/分ではSpO2>90%維持できないことを知らない、または、知っているのならその際の指示を出していない。
  5. 患者自身の自覚症状を確認していない。
  6. 食事中の患者の酸素療法のコンセンサスを得られていない。

以上、6点が考えられます。問題が整理されれば、ディスカッションは簡単ではないでしょうか。

どうするか
患者に自覚症状を確認する

まず、患者は食事中に「呼吸困難感」を自覚しているのか、酸素カニューラ6L/分の流量で鼻の痛みはないか、確認しましょう。

主治医を含めて、スタッフカンファレンスをする

食事中にSpO2が低下する」ということは、「Dr指示のSpO2>90%維持」が守られないのですから、この事実を主治医は知るべきですから、報告は必要です。そのうえで、主治医の意見も聞いて、みなで意見交換して、この患者の食事中の酸素療法についてコンセンサスを得る必要があります。今のままでは、相談者が対応するときは、患者は食事中にSpO2が低下しなくてすみますが、いないときは、SpO2が低下し、2のような患者への影響が懸念されます。担当看護師が誰であろうと、患者が低酸素状態にならずに食事ができるようにする必要があります。

  1. 患者が食事中、呼吸困難感を自覚している、努力呼吸徴候を認める、SpO2<90%になることをテーマにスタッフカンファレンスをする
  2. 酸素カニューラ6L/分の流量で鼻の痛みがなく、SpO2>90%維持できるのであれば、その対応を提案する(一般的な正しい使い方からは外れますが、患者メリットを優先させる)。
  3. ほかの意見があれば、みなで検討する。
  4. 患者へ説明し、方法をカルテへ残すなど、患者へ関わるスタッフ全員がその方法を知り、統一して実施する(実は食事中だけではありません。排泄時や清拭時なども必要かもしれません)。
ほかの方法に関して

酸素カニューラ6L/分では痛みを感じる、もしくはSpO2>90%維持できないのであれば、ほかの方法を検討する必要があります。簡単なのは、HFNCの使用です。台数やコストなどさまざまな問題があるでしょうから、難しいかもしれません。

また、私の経験ですが、高流量酸素療法を顔の横で蛇腹から直接流した経験があります。患者の顔の横で蛇腹を把持し、食事中SpO2が低下しないか観察する必要がありますが。当然、一般的な正しい使い方からは外れるので、コンセンサスを得る必要があります。

オープンフェースマスクに関して(メーカー許諾済)

これまでの酸素マスクは、マスク内に貯留させた酸素を吸うことで吸入気酸素濃度を上げていましたが、オープンフェースマスクは、酸素の吹き出し口を口鼻に向け、口鼻に直接届くようにしたものです。ですから、マスクの横に大きな穴が開いていても、吸入気酸素濃度が維持でき、かつ二酸化炭素の貯留もないというメリットから発売されています。以下は、製品情報のサイトです。

追伸:カンファレンスに関して

「忙しくて、なかなかカンファレンスが開けない!」と追加相談をいただきました

カンファレンスを設ける!って構えるとなかなか大変ですので、主治医が来棟したときに、近くにいるスタッフと一緒に医師へ相談する程度でいいと思います。できれば、病棟の管理者や上司へ予め相談しておくとより良いです。管理者の協力が得られると医師との時間調整をしてくれたり、カンファレンスに管理者が入ることで医師も真剣に耳を傾けやすくなったりします。

以上、参考になれば幸いです。ご相談いただき、ブログへの掲載も快く承諾してくださりありがとうございました!これを機に、みなさまからも臨床での問題などご相談いただけるとありがたいです。タイムリーには返せないかもしれませんが、一緒に考えさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

NT

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